2018
07.07

りとむ短歌会誌『さんごじゅ』を読む

りとむ短歌会の皆さんが編まれた「さんごじゅ」。5月に刊行されました。
結社内の同人誌ということになるのだろうか、
16名の皆さんが作品とエッセイなど寄せている。

印象的なのは、それぞれが自らの歌をいきいきと追求していくような姿勢だ。
勢いのようなもの、熱気のようなもの、冊子としてのかたちにまとまって刊行されることが
とても豊かに感じた。

湖になりたい夜は目薬をやさしく点してみなよ、ためしに   
                             越田勇俊

白シャツにアイロンかけてあたたかい雨の日曜言葉はいらず
                             里見佳保

そういえば、恋人ときたことがない三崎で掬うジェラード はつなつ
                             高橋千恵

嘘ばかり詠んできたけどまあいいか春のあくびにしびれたからだ
                            滝本賢太郎

おにぎりの鮭と梅とを分け合ひて妻はこくりと味噌汁飲めり
                               田村元

傘の骨どれもが強く張っている雨音高く短く響く 
                              樋口智子

応酬の修辞にこころ奪われて問うべきミューズ逃さぬように
                               和嶋勝利

とくに心に残った歌歌。
参加されている皆さんの一人一人が豊かで独自の世界を持つ。
そうした枝枝の一本からなる珊瑚樹・・
読むことができて、やがてゆたかな幸せが訪れるような一冊です。
2018
07.06

嵯峨直樹さん歌集『はじめての火』を読む

「未來」短歌会に所属している
嵯峨直樹さんの第三歌集『みずからの火』(角川学芸出版)が刊行されました。




1ページに1首が置かれていて、1首ずつの重みが伝わります。
都市生活者にある官能・感覚が、自然物を伴って描かれる。
巨大な街にちろちろと燃えるような自我、
まさに「みずからの火」を燃やして人は生きるのだと感じます。


ひかる街のけしきに闇の総量が差し込んでいる  空に月球

琥珀色の水滴の膜ふるわせて夜の市バスの窓のきらめき

スシローの賑やかだった更地には茎にからまるような秋の陽 

雷帯びた雲くりかえし潜らせてほつりほつりと綻ぶ身体

うす紅の空の底部を擦りつつ車のひかり街をつらぬく


言語のもつ幅や、
一首のなかでの語句同士のパイの配分のようなものを
よくわかり合って成立している作品群だと思う。
ていねいな歌だけが収められた「みずからの火」
とても読み応えのある歌集だと思います。




2018
06.09

大森静佳さんの歌集『カミーユ』を読む

「塔」短歌会に大森静佳さんの第二歌集『カミーユ』(書肆侃々房)が刊行されました。



赤を基調にした装幀も素敵ですが、
絢爛たる歌のことばに圧倒されます。

集中に現れてはまた去っていくような女性の姿。
いずれも激しくおのれの生き方を貫いた女性が、
コンテクストとして歌歌の底にあります。

老けてゆくわたしの頬を見てほしい夏の鳥影揺らぐさなかに

泣きながらわたしの破片を拾ってた ゆめにわたしは遠い手紙で

手をあてて君の鼓動を聴いてからてのひらだけがずっとみずうみ

皆殺しの〈皆〉に女はふくまれず生かされてまた紫陽花となる

そののちの長い月日の 狂うとき素足はひどく透きとおるけど




М・デュラス『愛人/ラマン』の世界を思わせる1首目、
カミーユ・クローデルをeaturingした5首目など、
愛と自律する己への意識が描き出されています。

デュラスで思い出しましたが、
彼女の「愛人」は、綴りがL' Amant、つまりは
女の側から見た男の愛人ということで、

この「カミーユ」でも自律を持つ女の情念が渦巻いているように感じました。
深々とした一冊。今年の話題をさらいそうです。


2018
04.11

山川藍歌集『いらっしゃい』を読む

まひる野の山川藍さんの第一歌集、『いらっしゃい』が刊行されました。



帯文は津村記久子さんが寄せておられます。
山川さんの歌は一読して、とても面白い。
主体の内面の声が表されているから、
それが読み手にも聞こえてくるという構成になっていて、
しかも視点が確かであるからだと思う。

そしてなぜ面白いのかを考えていくうちに、
それがあらゆる方向から見て対象の真実をずばりと言い当てているからだと感じました。
真実が見えてしまう者の苦しみ・おかしみ・かなしさ・鋭さは、
表面的には「笑劇」でありながら、深層としては「悲劇」であるとのではないかと思うのです。


なんだあのカップル十五分もおる「あーん」じゃないよ あとで真似しよ

待ち合わせ場所は北条早雲の像この人は誰なんだろう

大騒ぎしてすみませんと唐突に言い大騒ぎした人になる

徳が足りないので菓子を落とすときいつでも床のほこりの上だ

かっこいい 人間みたい 人間は かっこよくない シルバーバック 



山川さんの世界がとても豊かできつくて、ぐっと引き込まれます。
多くの人にお勧めしたいと思う歌集です。


2018
04.10

及川俊哉詩集『えみしのくにがたり』を読む

詩人・及川俊哉さんの最新詩集『えみしのくにがたり』が刊行されました。


『ハワイアン弁財天』に続く第二詩集です。

及川さんの出身地・・現在地である東北について、
かの震災を経て、土地に生きること、生き継ぐことのありようを
詩の方法を駆使してゆたかに描き出されています。

四章にわかれるうち、自分がとても魅力的に感じたのは

三章の東北方言を使った作品群で、

一人称・口語の語りが醸す肉感のようなものは

身近に東北に生きる人間の体温を

感じることが出来るありかたであると思う。



ほんとのこと、
いわねばねど
思ってんだげんぢょ、

ほんでくてねな。
(中略)

もは風ェコさはなすよんた気ぁするじゃ!

                                「風の対話」



(詩の世界では引用をどの程度にしてよいか、少し遠慮気味にしてみました)

「くにがたり」とタイトルにあるように、「かたり」は人によってしか成し得ず、

「かたりつぐ」こと・「かたりあらわす」こともまた人によってしかできないだろうと思う。

ナラティヴと通じるものもありますが、ここで見えてくるのは

人間の生きることそのものの力の放出であると思う。




生の迸りが「かたり」としての理知的なかたちを持つとき、

この詩集が生まれていたのだと思います。

ぜひお読みください


back-to-top