2018
04.11

山川藍歌集『いらっしゃい』を読む

まひる野の山川藍さんの第一歌集、『いらっしゃい』が刊行されました。



帯文は津村記久子さんが寄せておられます。
山川さんの歌は一読して、とても面白い。
主体の内面の声が表されているから、
それが読み手にも聞こえてくるという構成になっていて、
しかも視点が確かであるからだと思う。

そしてなぜ面白いのかを考えていくうちに、
それがあらゆる方向から見て対象の真実をずばりと言い当てているからだと感じました。
真実が見えてしまう者の苦しみ・おかしみ・かなしさ・鋭さは、
表面的には「笑劇」でありながら、深層としては「悲劇」であるとのではないかと思うのです。


なんだあのカップル十五分もおる「あーん」じゃないよ あとで真似しよ

待ち合わせ場所は北条早雲の像この人は誰なんだろう

大騒ぎしてすみませんと唐突に言い大騒ぎした人になる

徳が足りないので菓子を落とすときいつでも床のほこりの上だ

かっこいい 人間みたい 人間は かっこよくない シルバーバック 



山川さんの世界がとても豊かできつくて、ぐっと引き込まれます。
多くの人にお勧めしたいと思う歌集です。


2018
04.10

及川俊哉詩集『えみしのくにがたり』を読む

詩人・及川俊哉さんの最新詩集『えみしのくにがたり』が刊行されました。


『ハワイアン弁財天』に続く第二詩集です。

及川さんの出身地・・現在地である東北について、
かの震災を経て、土地に生きること、生き継ぐことのありようを
詩の方法を駆使してゆたかに描き出されています。

四章にわかれるうち、自分がとても魅力的に感じたのは

三章の東北方言を使った作品群で、

一人称・口語の語りが醸す肉感のようなものは

身近に東北に生きる人間の体温を

感じることが出来るありかたであると思う。



ほんとのこと、
いわねばねど
思ってんだげんぢょ、

ほんでくてねな。
(中略)

もは風ェコさはなすよんた気ぁするじゃ!

                                「風の対話」



(詩の世界では引用をどの程度にしてよいか、少し遠慮気味にしてみました)

「くにがたり」とタイトルにあるように、「かたり」は人によってしか成し得ず、

「かたりつぐ」こと・「かたりあらわす」こともまた人によってしかできないだろうと思う。

ナラティヴと通じるものもありますが、ここで見えてくるのは

人間の生きることそのものの力の放出であると思う。




生の迸りが「かたり」としての理知的なかたちを持つとき、

この詩集が生まれていたのだと思います。

ぜひお読みください


2017
12.06

鶴田伊津さん歌集『夜のボート』を読む

「短歌人」に所属する、
鶴田伊津さんの第二歌集『夜のボート』(六花書林)が刊行された。




第一歌集から10年の待望の新歌集で、
この間の日々や思いがていねいに掬い取られていきます。

子どもとの日々の歌が多いが、子どもが歌の本当の対象ではなく、
子どもを通して、自らを鋭く見つめているのが印象的。
周囲とは自らを反照させる鏡のような、レフ版のようなものであるとも思います。



ゆうぐれに開くというを教えたりオシロイバナに指を染めつつ

放埓のこころほのかにきざしたる夕、手離しで自転車に乗る

母国母港母語母音母船語句の中、母とは常にかえりつく場所

わたくしはわたくしのためきみはきみのために生きると手をはなしたり

われの乗る舟ちいさくてこの夜に漕ぎ出だす前すべて捨てんよ


きっぱりとして、凛としていて、いさぎよい。
同世代の歌人として、ずっと先を歩んでおられる感じと畏怖と憧れを感じる。
自分ということ、歌集に宿る一本の精神性について、
深く感じたい歌集であると思う。

ぜひお読みください





2017
07.26

「羽根と根」6号を読む

若い歌人たちが編んでおられる同人誌・「羽根と根」6号。
もう6号にもなるのだと思う。
参加している人たちの不断の努力があってこそ、
6号まで続け、そして刊行していっているのだろうと思います。

今号は歌作品と、中津昌子さんと寺井龍哉さんの前号評があって、
とても読みごたえがあります。歌歌にも佳品が多い。

ゼラチンに匙をさしこむ羊水のさらに増えたる姉と並んで
                          坂井ユリ

入口のとこで待ってる盛り塩の器にガムが吐き捨ててある
                          中村美智

サイダーで君の手指を洗ってく錆びた水道場にすわりつつ
                          橋爪志保

言い過ぎてしまったことを朝方のしめった草に触れながらおもう
                          阿波野巧也

貧乏にならないために買えなくてすべるすりへっているヒールは
                          今井 心

使い捨てマスクの中の舌打ちがなかったことになる向かい風
                          佐伯 紺

雨水が垂れてくるのをさけながら高架を抜けて駅があるはず
                          牛尾今日子

関係を名づければもうぼくたちの手からこぼれてゆく鳳仙花
                          佐々木朔

それぞれの人の歌。
小さな気づきと毎日、ということに少し立ち止まる、考えることが
とても苦しいし、あるいは無駄だし、またはとてもかけがえのない。



ご紹介が遅くなってしまったことをお詫びしたい。

参加者の皆さまが、ご自分の歌の道を灯しつつ
颯爽と歩まれてゆかれることを祈っています。






2017
07.25

遠藤由季さんの歌集『鳥語の文法』

かりんに所属する、遠藤由季さんの第二歌集『鳥語の文法』(短歌研究社)。
第一歌集『アシンメトリー』から7年ぶりの歌集です。
1ページずつ捲っていくと静かで、でも芯のある歌歌に出会います。




風立ちてわが額へと注がれる落ち葉の痛し洞ならざれば

鬱の字を一画ごとに摘まみ抜き息吹きかけて飛ばしてみたし

ガラス戸に翳り映れるわが顔もわが顔 鳩が白く過ぎりぬ

感情が苦く逆流してきたり梅の枝ぎしぎし空へと伸びて

スカイツリー届かぬものを最初から視野に入れない生き方もある


世の中の具体的な事象について声高に叙述するのではなく、
身めぐりの思いや関りを細部まで見つめて成立した歌集です。

一首ずつが確実に立ちあがり、しっかりと読ませる作家だと思う。
全体に重い雰囲気なのは、否定形、または否定的な要素を
多用した文体にあるのかもしれない。
ここに挙げた歌にも「痛し」「鬱」「翳り」「逆流」「届かぬ」「入れない」などが見て取れる。
それは、やはり作者の実際の心象が反映しているからなのかなと感じます。

大地をしっかりと踏みしめて立つ女性を見るような歌集。
ぜひお読みください





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