2012
07.12

大口玲子歌集『トリサンナイタ』を読む




角川学芸出版より。
心の花の大口玲子さんの待望の第四歌集。

お子さんの誕生と共に、新しく纏うこととなった、

自らの母性を見つめて真摯に歌を綴っていきます。


お子さんの誕生はもちろん喜ぶべきこと。

しかし、子どもという要素は、あるいはそれまでの自己の世界を蹂躙するものかもしれない。

生まれた瞬間から、母として生きることを強いられる。

それはある意味とても苦しいものだと思います。


飽いて、厭いて、愛して、苦しむ。

そんな心の様子が率直に、深く綴られていきます。


転機となったのはあの震災で、

大口さんはお子さんとともに仙台から避難の道行きを。

苦悩の避難の道行きが記されていきますが、

私はこの避難行の歌群が、

この歌集でもっとも大口さんらしい、

ダイナミックな詠いぶりだとも

思ったのでした。



全東北こころに収め眠りをり祭りの小さき火をともしつつ

紙袋に乳児捨てられし記事を読みその重さありありと抱きなほす

今日一日とりあへず母を全うし梅酒の壜を確かめ眠る

見えぬものは見ない人見たくない人を濡らして降れり春の時雨は

許可車両のみの高速道路からわれが捨てゆく東北を見つ

被災者といふ他者われに千円札いきなり握らする老女をり

仙台をすぐに離れて戻らざる妻をかばひてきみ生きをらむ




私は避難しなかった母親。

大口さんは避難した母親。

子どもを思う気持ちはきっと変わりないと

思いながら読ませていただきました。


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