2015
05.23

短歌同人誌『羽根と根』3号を読む

短歌同人誌『羽根と根』3号。学生短歌会のメンバーが立ち上げた同誌も3号を数える。
今号は阿波野巧也、上本彩加、佐伯紺、坂井ユリ、佐々木朔、七戸雅人、服部恵典の7人が参加している。

編集の妙というのか、目次は巻末、そして1ページ1首組みで統一されていて
一冊の歌集に収録された一人の作者による連作を読んでいるような初読の感じがある。
作用の強いのは1首組みのほうかもしれない。
どの作者の歌も一首組が適応するかというとそうでもないことが分かってくる。

読み手はただ歌に焦点が絞られ、時間を占有される。
そうした、ファム・ファタルみたいな魅力が醸してくる。


海満ちる窓辺にたぶん君はいてたぶんわたしを思い出さない           坂井ユリ/「花冷え」


→「君」は豊かな環境にいて、「わたし」は忘却される側にいる。両方覚えている「わたし」のおそろしい予測。



夕暮れはぼくの中までおとずれて郵便局を閉ざしていった             阿波野巧也/「寿司以後のcolor space」
 
→「郵便局」が含む他者との関わりの発点、上句の「夕暮れは~おとずれて」詩的な感覚の鋭さ。

ホチキスの針をどっちに打つかって話したせっかくの風のなか           佐々木朔/「湖辺で」

→些細なことに時間を割くのを惜しむ主体がいる。
主体にはせっかくの風を楽しみたい。他者との関わりは魂を枯らせることのように読んだ。


ひとつひとつ街を眠らせてゆく雨を生きたまんまで見るだけだった         上本彩香/「箱のひとつ」


→「生きたまんまで見るだけ」という罪悪感にも似た表象主体の心理が浮かび上がる。

 
愛してるじゃなく愛していると言え秋のわたしを真剣に抱け              服部恵典/

   「十種の愛、九本のY染色体、八人の女、七色のドロップス、六組の異性愛、
                                五つの声、四つの季節、三輪の花、二頭の獣、一つの大災害」

→激しい相手への要求は真実の愛の深さから来るものなのだと思われた。下句「秋のわたし」が効いている。


手の甲をふかく濡らして鼻毛切りばさみは洗ひをへつ ゆかねば          七戸雅人/「Phobia Phobia Phobia」

→鼻毛切り鋏が綺麗になることと手の甲が濡れることは平行して起こる。「ゆかねば」と思う義務の心は少しの後。
時間の妙と日常のなかのつよい衝動が対比され面白い歌。


たのしいはさみしい 風に降らされて落ちて踏まれてゆく花びらは          佐伯紺/「兆し」

→花びらを凝視している。初句がすべてを語り尽くしている。アフォリズム的な力を孕んでいる。



この『羽根と根』3号は5月の初めに行われた文フリでも大人気だったとか。
その理由も分かる気がする。

先頃、通信販売も始められたとのことです。(今日5月23日現在)
購入方法など詳しくは、短歌同人誌『羽根と根』サイトをご覧ください。

次号も楽しみな誌、末永く様々な形で発信し続けてほしいと思います。







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