2015
08.31

川本千栄歌集『樹雨降る』

「塔」短歌会に所属する川本千栄さんの第三歌集『樹雨降る』(ながらみ書房)。

多く日常に題材を求め、家族、育児、そして仕事、自身の病と、
緻密な観察と描写で、ていねいに日常をすくい上げています。
平易な言の葉のなかにざわざわとした心のありようと生死についての考察が感じられて
大きな迫力を感じました。


「赤ちゃん」とかつて赤ちゃんだった子が寄って行くなり桃咲く道を

朝顔のように生きよと言われたる私にいかなるいかほどの残生

暮らすことは負債を溜めることに似て木犀の香にもう目は閉じず

木の零す静かな時間 あなたとは出会わなかった生を思えば

本当のことなど無いと君は言い枝から雀が地に降りて来る


日々生きている中にふと自身の生を振りかえるとき。

この家族のいない、自分の別な人生を思うとき。

そしてもっと原始的に、この自分が、今生きているということとは。


それぞれの歌からは逆説的な生への問いが滲出してきているようにも思います。

あとがきには
「六年に一度歌集を出そうと漠然と決めていたのだが、さらに一年余り時間が経ってしまった。
自分の歌、ひいては生き方に迷いがあったためである。」と記しておられ、

この歳月の間の作者の生のじぐざぐな手触りのようなものを、おそらく同年代?として
非常に生々しく受け取ったような気がしました。
タイトルの「樹雨」がそれをシンボリックに語っているのではないかと感じました。















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