2013
08.07

真中朋久歌集『エフライムの岸』を読む。

ブックレビューが続きます。

「塔」所属の真中朋久さんの第3歌集、
『エフライムの岸』(青磁社)を読みました。



2010年までの552首を収める。

タイトルの「エフライム」は響きの不思議な、
興味を引く語句ですが、これは、旧約聖書の『士師記』に基づく、とあとがきに書かれています。

『士師記』は、登場する士師たちにとっては、
ある民族の救済と駆逐の活躍の物語なのだけれど、
同時に異なる方から見てみると、侵略・殺戮の物語でもある。
諸刃の剣というか、表裏一体のような危うさを含んでいる。

ひりひりとした現代社会もそういったものではないか。
作者・真中さんの透徹したまなざしが光ります。
あとがきに収められた作者のことばが印象的です。


雨の降る品川駅を通過して座席に重き加速感じをり

光復節近しと言ひて光復ののちの苦難に言ひ及びたり

解雇告げるこゑ隣室にしづかなりしづかなればなほ響きくるなり

ゆびさきをかるくつなぎあふ二人なりうしろにわれがゐると気づかず

洗ひあげし茶碗に残る口紅はあの女なりこすり落とさむ



たとえばこのような歌。

一首目には中野重治「雨の降る品川駅」がコンテクストに感じられる。
いうまでもなく、
天皇制批判の詩の舞台となった「そこ」にいる主体は、電車の「重き加速」を感じる。
そして「そこ」から離れてゆく。

自身の立ち位置と、それに対する自身の態度を、
しずかに自己批判しているのではないか。

現代がはらむ危うさを、自らは、そして私たちも含めて、
なあなあな部分をもつて、多くを看過して生きてゆく。
むしろそれはごく普通のことのように思われるのだけれども、
作者は疑念を感じている。

それが歌集の全体の底を形成しているように思います。


もっと深く読めば、もっといろいろなことが考えられるかも知れない
歌集と思いました





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