2014
07.12

楠誓英歌集『青昏抄』を読む

アララギ派に所属する楠誓英さんの第一歌集『青昏抄』を読みました。

この歌集は、
現代短歌社の主催する第一回現代短歌賞の副賞として刊行されたもの。
歌集刊行の新しいかたちのひとつとして
歴史を刻んでいくのではないでしょうか。

詠風は堅実かつ誠実で、安定した描写の力に読者は
信頼して読み進めることが出来ます。
現実にどう向き合うか、この人の歌集はそれを
へんに力んで技巧を目立たせたりせず、
初めから実践している。


講堂の床に金色の陽の差してパンを焼くやうな匂ひしてゐる

凍えたる両手を頬にあつるとき水底おもふ悲しみのあり

狂ふとは狂ふおのれを知らぬこと 白壁に吾が影の伸びゆく

少年の家族の話聞く間にも釣糸は白く凍りはじめる

朽ちゆきし人体の塩が少しづつ海水へ変はる時の間にゐる




いずれもくきやかにある場面をきりとって、
しかも美しさとなんらかの悲しみをたたえている。
誰もが苦しさや恥ずかしさを心の中にもっていて、
だが、朗らかに生を送るほかない、という
その悲しみに静かにと寄り添うような作品群です。

これらの歌には幾人かが同時に「暗さ」を指摘しているのだが、
「暗さ」はこの作者が意識的に醸したものではないと思う。
「暗さ」は無意識のうちにこの作者がすでにはらんでいる
のであって、暗いから明るい歌も読みたいとか、そういう話ではない。
身のうちにあるものを絞り出した結晶がこれらの歌なのだと思います。

最近でいうと、新奇性とか技巧でがちがちに武装した
窮屈な歌が多いのですが、(それもまた読む楽しみは十分にあると思います)
作者自身の生を共にしみじみと実感できる歌こそ
原点なのだと改めて思いました。

楠さんの新しい出発とこれからのますますのご活躍を
心からお祈りしています





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