2015
05.15

歌集『耳ふたひら』 松村由利子 を読む

かりんに所属する松村由利子さんの第4歌集『耳ふたひら』を読みました。
南の離島に移住して5年余り。
離島の自然に身を置くことで、みずみずしい感覚の鋭さを獲得しつつ、
自らの存在自体について問いを綯う歌集です。
3つの章にはそれぞれ巻頭歌が賦されており、章の主題に肉薄するものになっている。


くっきりと光と影は地をわかち中間色のわれを許さず

半身をまだ東京に残すとき中途半端に貯まるポイント

会社勤めの日々遠くあり軍手はめハリセンボンを捌きゆくとき

東京のお菓子をあげて生みたての玉子もらいぬ 恥ずかしくなる


例えばこうした本土と離島との差異は日常の深くにまで及んでいて
移住者としての自分について、作者は常に問い続ける。
また、ジェンダー、老い、沖縄基地問題など、
難しい問題を直截な言葉ではなく、自らの感覚に乗せて詠っています。

書肆侃々房の「現代歌人シリーズ」の第2弾として出されたこの歌集は
歌集出版に新しい世界を拓くかたちが選択されたことと共に
松村さん自身の歌の新境地でもあるのかもしれません。

移住者としての澱がとりのぞかれたとき、離島の人としてどんな歌境に到るのか
それもまた読者の一人として楽しみです。


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