2015
07.14

中津昌子歌集『むかれなかった林檎のために』を読む

「かりん」に所属する中津昌子さんの第五歌集『むかれなかった林檎のために』。

自らの病への不安や老いた母との関係など、厳しい現実をなお優れた修辞で丁寧に掬い取っていく。
この歌集から現代仮名遣いへと戻した意思と、現在という時間がとてもよく一致していると思う。


雨粒がひとつ当たりぬ青空がまだ残りいる鴨川左岸

たっぷりと水をふくみてふくらむ麩 さびしむために老いるか母は

顔を洗おうとてのひらにためる朝の湯のゆらゆらとしてあかるかりけり

朝顔の糸張られたりのぼるもののいまだあらざる糸がゆらめく

眠って眠って産道を下りてゆくように母は眠りぬま昼をふかく



現実の事象を描く場合に直截に描くのではなく、周縁から入っていく歌が
独特の世界を生み出して、深度と幅が拡がっていく。

何度も手元に置いて読みたい歌集。今年はベテラン歌人の歌集が豊饒な年かもしれない。



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