2016
07.12

大井学歌集『サンクチュアリ』を読む

「かりん」編集委員を務められている
大井学さんの第一歌集『サンクチュアリ』(角川書店)。
歌歴20年のベテランの、(だが) 処女歌集、
というトピックが先行して駆けめぐった話題の歌集である。





その歳月にふさわしく、もう第三歌集ほどの落ち着きと深さがある。
佳い歌はたくさんあって、それは挟み込まれている栞に
永田和宏さんや穂村弘さん、辻聡之さんらが挙げておられる。

私は職業を詠んだ歌やその心持ちが関わっている歌に注目した。



生きるとはハネを伸ばさぬことである見よ標本の蝶の死に様

休日を人と話さずスーパーのデコポンのへそ押して夕暮れ

主役である必要はなし そうめんの葱の辛さを恋おしみており

辞表を出す部下の伏目を見ておりぬ「驚く上司」という役目にて

手渡してすぐかけ去りき〈バイク便〉冬の空気のにおいのこして



何らかの組織に「在る」ということ、
それはまぎれもなく「われ自身」を消した「われ」なのだ。
消さなければ「われ自身」が死んでしまうだろう。
だから「われ」はひっそりと、だが堅く・頑なに「われ自身」を護る。


「われ自身」はいきいきと保たれ、
感じたり考えたりする。歌もつくる。


歌集のタイトルにもなった「サンクチュアリ」=聖域とは、
だれにも踏み込ませない、
唯一不可侵の、「われ自身」の聖域なのだと思う。

読者はいっとき聖域のなかを散策させて貰い、様々に感じ入る。
しみじみと何回も読み直し、考える歌集だと思う。







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