2012
08.23

東野登美子歌集『豊かに生きよ』を読む

更新が滞りぎみの昨今ですが
このたびは何冊か歌集をご紹介したく思います。


東野登美子歌集 『豊かに生きよ』(いりの舎)

東野さんはアララギ派短歌会所属。

歌集は二部構成となっていて、
第一部が娘の千穂さんと歩んできた日々を、
第二部が高校の社会科教師としての日々を詠んだ歌を収めています。

いずれの歌も率直であたたかく、技巧が目につく歌を見慣れた目にはまっすぐで眩しい。
 

 金色の稲野を想ひ実りあれ豊かに生きよと「千穂」と名付けぬ

 遠慮がちに医師はカルテに書きこみぬ「自閉傾向を伴う発達遅滞」

 四歳で「アイ」と言葉を発してより我が家は君の愛で溢れた

 君の言ふ「アイ」には数多の意味があり行為と心理で推理して聞く


第一部より。娘の千穂さんは障害を持っていますが、千穂さんの成長を、

母親である東野さんは丁寧に見つめ、そして千穂さんを通して、自らも見つめています。


第二部では東野さんは高校教師である自分を詠んでいます。

生徒は未成熟であるから、虚実をすぐに感じ取り、それが虚だと分かったとたんに、大人のように押し黙ってやり過ごすのではなく、ときに鋭い糾弾を向けてくる。それを東野さんは凝視し、歌にしています。


 複素数にわたしを例へる生徒ゐて瞳に暗い月を宿せり

会ふたびに厳しい眼を向ける子になぜ?と問へずに二年過ぎたり

前よりも大人になったぼくのこと詠んでみてよと青い少年

かっこいい言葉がみんな嘘っぽく聞こえてくる日だ卒業します




この歌集を読んで、いちばん心にかかってくるのは「寄り添う」と言う言葉です。




真に人に「寄り添う」ことは難しい。
「寄り添われる」ことの気味悪さと、
「寄り添ってあげる」ことの胡散臭さを、東野さんは身をもって知っているのではないかと思います。

母として、また教員として、異なる立ち位置にありながら、

他者になにかを「してあげる」のではなく、


「寄り添ってあげる」のではなく、


ただ、そこに、あたたかく居るということ。


その変わらない純粋な思いが千穂さんには確かに伝わっていたのだと思いました。

 


がんばれと手を振りたれば進路変へ子はわが胸をゴールに選ぶ






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